助成実績

助成事業 2024年度 選考総評

財団の研究助成事業、2024度の選考等を終えて


公益財団サロン・ド・K財団は、昨年度から新事業として大阪の若い研究者への研究助成を開始し、本年は2年目になります。本年4月から6月30日までの募集期間に計19件の応募がありました。1次審査、2次審査を経て、4人の助成対象者を選考し、10月には交付を開始しました(柿倉泰明氏と宮崎佑介氏には、10月中旬に交付完了、蟹江裕哉氏及び陳彦如氏には、対象者側の都合により10月28日現在未完)。この間、ご尽力いただいた関係者の皆様に心から感謝します。

本年度も、申請書からは申請者の方々の研究への情熱が感じられ、本助成事業の意義を再確認しました。昨年度の経験から、応募はどうしても(医学系を含む)サイエンス系の研究が多い傾向があります。一方、当財団の助成事業の趣旨の特徴の一つは、研究テーマの多様性の維持であることから、本年度は、文化系からの申請を期待して、大阪府下の、博物館や美術館にも募集のアナウンスを送付しました。その結果、2件の純文化系の研究者からの申請がありました。更に、大学以外の組織に所属する研究者からの応募、及び新規制の高いテーマを追求する研究者からの応募も増えました。少しずつですが、当財団の助成事業の姿勢へのご理解をいただいている感触を得ています。

今後もこの方針で研究助成活動を進めていく所存です。

以上

2024年10月28日
公益財団法人 サロン・ド・K財団 理事会

サロン・ド・K財団 研究助成事業  2024年度


助成対象者、研究テーマ 及び 助成金交付金額 (申請書受付順)
本年10月に、本年度の助成対象者4名を決定しましたが、そのうちの1名の対象者は、期日までに手続書類の提出がなされませんでした。当財団も、何度も連絡を試みるとともに、救済措置の検討を行いましたが、 その原因となる特段の理由も見当たらず、また、当助成事業の趣旨に反すると思われる状況も認められたため、交付決定を取り消しました。
従って、本年度の対象者は以下の3名です。



助成対象者 : 柿倉 泰明 氏  39 歳  

所属 : 地方独立行政法人 大阪産業技術研究所 和泉センター
応用材料化学研究部 環境・バイオ研究室 主任研究員

研究テーマのタイトル : 固相担体の金属イオン吸着特性評価とPFAS分析前処理法への応用 

交付金額 : 100万円

研究内容の概説

PFASは撥水加工やめっき浴のミスト抑制等に広く利用されてきたが、近年では水質汚染や人体への影響の懸念から、その使用規制および検出試験規格の整備が進んでいる。しかし試料に高濃度の金属イオンが含まれると、分析の前処理で行うPFAS濃縮工程の阻害や、検出機器による分析精度の低下といった課題が生じる。本研究では、PFASが頻用されてきたクロムめっき液を念頭に、キレート法や沈殿除去を組み合わせた前処理法を構築し、これを用いたPFASの定量分析法を確立する。この成果は、製造業を中心とする企業のPFAS規制対応に寄与するとともに、クロム以外の金属への適用等の発展を見込める。

助成対象者 : 宮崎 祐介 氏  40 歳

所属 : 近畿大学農学部環境管理学科・准教授

研究テーマのタイトル : 採捕方法として“釣り”を用いた魚類調査に基づく統計解析 : 南紀・串本沖での試行

交付金額 : 70万円

研究内容の概説

魚類の資源量統計・推計は、水産上重要種のみに限定されており、水産利用の少ない(無い)魚種では、その資源動態もほとんど明らかになっていない。釣り人口は減少が続いているものの、釣り人が取得・所有する魚類の多様性情報は膨大と考えられる一方で、主にデータの偏りを背景に魚類群集構造の解析には活用されてこなかった。本研究は、定置網や底引網漁がほとんど行われていない南紀・串本沖の岩礁域で、仕掛けや採捕努力量を一定に揃える等により、統計的な比較や解析が可能なデータを取得し、その適切な補正により季節変動等の解明を図るものであり、この成果は、生物調査方法としての釣りの可能性を拡げ、広域・大規模な調査実施への発展にもつながる可能性を持つ。

助成対象者 : 陳 彦如 氏  32 歳  

所属 : 大阪市立東洋陶磁美術館 学芸課 学芸員

研究テーマのタイトル : 近世日本の喫茶文化の展開―天目碗の編年と使用を中⼼に―

交付金額 : 50万円

研究内容の概説

日本の近世は喫茶文化が武家階級から町民層へと広がり、大衆化が進んだ時期とされるが、その詳細は十分に解明されてはいない。特に従来の喫茶史において、優品に焦点が当てられることが多いため、大衆が使う雑多な天目碗の使用実態と変遷に注目する研究は少なかった。
本研究は、瀬戸・美濃といった天目碗の主たる生産地の窯跡資料と京都・江戸等の消費地遺跡出土物を網羅的に収集・分析し、茶会記などの文献資料に見える喫茶文化の展開との関係性も考察し、より立体的かつ連続性のある歴史像を描き出すことを目指す。考古学を中心とした物質文化研究を軸に、文献史学を中心とした文字資料研究を融合するアプローチであり、近世喫茶文化の新たな側面を照らし出すことにつながるものである。

助成事業 2023年度 選考総評

財団の研究助成事業、初年度の選考等を終えて


公益財団サロン・ド・K財団は、本年度から新事業として大阪の若い研究者への研究助成を開始しました。5月から7月10日までの募集期間に、計19件の応募がありました。1次審査、2次審査を経て、3人の助成対象者を選考し、10月には、助成金を交付しました。

当財団では初めての経験でしたが、ご尽力いただいた方々のおかげで募集から選考、交付まで、滞りなく進めることができました。関係者の皆様に心から感謝します。

以下に、今年度の助成事業の印象を述べます。

先ず、19件の応募の申請書から、申請者の方々の研究への情熱が感じられ、本助成事業の意義を再確認しました。全体として、メディカル系が多い、大学所属が多い、申請書を書き慣れている方が多い、既に研究実績のある方が多い、等の印象を受けました。

当財団の助成事業の趣旨の特徴は、HPに記載の通り、研究テーマの多様性を高めることと、研究費を得ることが難しい環境の方々を対象にすることですから、選考にあたっては、研究テーマの“独創性”、“新規性”などの他に “当財団助成事業の趣旨への適合度” も評価しました。

次回からは、助成事業のアナウンス送付先を、大学や研究所だけではなく、各種の文化施設等にも拡大する予定です。それによって、より広いテーマを追求されている研究者からの応募を期待しています。

以上

2023年10月31日
公益財団法人 サロン・ド・K財団 理事会

サロン・ド・K財団 研究助成事業  2023年度


助成対象者、研究テーマ 及び 助成金交付金額 (申請書受付順)

助成対象者 : 辻岡  洋 氏  35 歳  

所属 : 大阪大学大学院医学系研究科、准教授

研究テーマのタイトル : メダカ近縁種の脊髄再生能比較  

交付金額 : 100万円

研究内容の概説

組織の再生能は、一般に体制の単純な生物ほど高く、ヒトを含む哺乳類では再生能が低い傾向がみられる。進化的に有利なはずの再生能が進化に伴って喪失したのかについては、再生生物学の最重要課題の一つであると同時に、中枢神経系等ヒトでは再生しない組織の損傷に対する治療法の開発につながる可能性がある。進化に伴ってどのように再生能が失われるのかを明らかにするには、再生能が異なり、進化的に近縁で、遺伝学的に操作可能な種で検証する必要がある。本研究では、これまでの知見から、メダカにごく近縁な種で再生能低下の進化的イベントが生じた可能性があるため、メダカ近縁系をモデルとして、再性能と相関して発言変動する遺伝子を同定する。脊椎動物のゲノム解析が進む中、ゲノムの中のどの配列の変化でもたらしたのかを高い解像度で推測することができ、最終的には1塩基レベルでこの変異を証明できるようになる。

助成対象者 : 北山 雄己哉 氏  37歳

所属 : 大阪公立大学大学院 工学研究科 物質化学生命系専攻 応用化学分野

研究テーマのタイトル : 海洋マイクロプラスチック問題の解決に貢献する高分子微粒子材料の開発

交付金額 : 100万円

研究内容の概説

自然界で分解されにくい非分解性高分子微粒子(一次マイクロプラスチック)については、海洋汚染防止の見地から既に欧州で使用制限が課され、我が国化粧品業界でも自主規制されている。高分子微粒子の需要は拡大傾向にあり、生分解性高分子微粒子材料の市場は今後急成長すると予想されている。本研究では、「界面光架橋反応」に適応する光反応性ポリエステル(酵素分解性や加水分解性を示す)を逐次重合法により合成し、中空粒子やカプセル粒子などの構造的機能化された新たな分解性高分子微粒子材料の創出技術の確立を目指す。

助成対象者 : 土井 俊央 氏  35歳

所属 : 大阪公立大学 生活科学研究科 講師

研究テーマのタイトル : UXデサインのためのユーザの体験価値評価メカニズムの解明
           副題 : 製品利用時の時間軸に着目した分析

交付金額 : 50万円

研究内容の概説

魅力的な製品を生み出すには、ユーザが利用体験(UX)全体を通じて得る体験価値を起点としたUXデザインが求められる。現状は、ユーザが製品と関わる時間軸の中でどういった体験で体験価値が向上し満足感が醸成されるかという体験価値評価メカニズムに関する知見が乏しく、効果的なデザイン開発ができているとは言い難い。本研究は、4つのUX(一時的UX、エピソード的UX、予期的UX、累積的UX)に分ける一般的な捉え方に即し、予期的UXと累積的UXについて知見を拡大し、科学的根拠に基づくより効果的で属人性の小さいUXデザインアプローチの実現に寄与することを目的とする。

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