代表理事挨拶

2023年 3月
公益財団法人 サロン・ド・K財団
代表理事   北村 肇

私は今年で81歳になりました。我が国の男性の平均寿命に当たります。そのせいか、最近、これまでの自分の足跡を振り返ることが多くなりました。80余年の自分の個々の行動をあげつらうと、失敗だらけ、後悔ばかりで、自分が如何に馬鹿であったかを思い知り、溜息さえ出ます。一方、『これだけはやり遂げたい』と思ったいくつかの仕事は何とか達成できた、と感じています。したがって、現在の心境は、
自分の人生は、クローズアップで見ると不合格、ロングショットで見ると何とか合格
です。とはいえ、人生の多くの岐路で、選んだ道が正しかったのか、それとも間違っていたのかは、多くの場合、自分自身でも判然としません。しかしその中で、これだけは間違っていなかったと自信をもって断言できることが2つあります。それは、基礎医学(補体)の研究をライフワークとしたことと、『サロン・ド・K』という文化活動組織を立ち上げたこと、です。

この2つを、簡単に振り返ってみます。

私は、医学部を卒業し、医者にはなりましたが、臨床医生活をいまひとつ楽しめずにいました。しかし、一度は研究をしてみたいと考えて始めた補体研究は、容易ではありませんでしたが実に楽しく続けることができました。それまでの学問上の疑問が、熟慮の上で敢行した実験によって解決する様は、何事にも代え難い喜びをもたらし、大いなる生きがいを感じることができたのです。もっとも、所属する研究組織から与えられる研究費は不十分で種々のやりくりに頭を悩ませていたのも事実ですが…。68歳の時、長年に亘る研究活動の集大成として、若い研究者を対象にしたテキスト『補体学入門 ―基礎から臨床・測定法までー』(学際企画)を上梓しました。自分の頭にあることは、若い研究者の役に立てるに違いない、と考えたからです。この著作こそが、前述の『生きているうちに是非やり遂げたかった仕事』の一つ、です。

一方、41歳の時、研究所と自宅との往復しかしない自分の生活を見つめ直して、他の世界も知りたいと始めたのが『サロン・ド・K』と名付けた他分野の専門家の講演を聞く活動です。この講演を聞く例会を、毎年10回行っています。最初は数人の友人に声をかけて始めたのですが、当時私自身でさえ、よく続いて5年程度、と考えていました。しかし、始めてみると、他分野を知ることは期待通り、いやそれ以上に楽しく、参加者たちの協力を得て、何と!今年で40年も続いています(但し、コロナ禍で2年5ヶ月は休止)。現在、メンバーは約50人、例会も毎回30人近くが参加しています。『サロン・ド・K』では、『知る喜び』の享受をテーマにしていますが、それ以外に、演者の方々の情熱や生き様を知ることもでき、私たち聴衆は元気を貰うことが多いのです。日頃のメディアからの情報は、殺伐とした暗いニュースばかりですので、貴重な体験の場であるといえるかも知れません。また、2019年には大阪府から公益認定を受け『公益財団法人サロン・ド・K財団』となっています。

40年目に当たる今年、公益財団法人サロン・ド・K財団は、例会(講演会)開催のほかに、もう一つの活動を始めることにしました。それは、若い研究者への研究助成事業です。これは、前述の私自身の経験がもとになっています。若い研究者の皆様には、夢と情熱を持って研究活動に邁進していただきたいのです。特に、主流の研究ではないマイナーな研究テーマを追っている研究者、あるいは恵まれない環境で研究費が不足している中で頑張っている研究者のお手伝いができれば…と思います。それによって、研究者自身が楽しく意義深い研究生活を送ることができ、更に結果として自然科学や人文科学分野に於ける学術的貢献、ひいては社会貢献に繋がることを期待して…。

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